絵手紙ラボ・年賀状〜暑中見舞いまで。色々な道具で手書きを楽しもう!

絵手紙人のための11条  − 11 rules for professional −  

小池先生が以前出版された『絵手紙入門』(日貿出版社・1998年)の「絵手紙人のための11条」をもとに、Etegami.laboが解釈した11条です。もちろん「絵手紙にはルールがない」が基本なので、これらは「やらなければいけない」という絶対のものではありません。行き詰まったり、マンネリを感じた際に参考にしてください。

1. お手本について

絵手紙には、人がつくったお手本はありません。教えられたらみんな、同じになってしまいます。『絵手紙はみんな違ってみんないい』の世界です。顔も体も考え方も感性も‥みんな違うのだから自分の個性を大切に。
「手紙」という性質なので、相手があって初めて成り立ちます。展覧会に出したり、大勢の前で発表するような『作品』とは違い、私的な通信書です。思い切って自由にかきましょう。お手本がなければ、自分の目で見て、自分で考えてかくしかありません。人がかいたお手本に頼ると一生、頼らないとかけなくなります。「頼りグセ」にどっぷりはまってしまうと、何かにつけ「お手本」がないと行動できなくなります。私たちは小さいころから「お手本ありき」「みんなと同じがいい」と教えられてきていて、それが染み付いてしまっています。でも、自分 と全く同じ考え方・環境の人なんていないです。自分の目で見て、自分で考えて、本来の自分を取り戻しましょう。その訓練が絵手紙です。 手本に頼るのではなく、自分のヘタさに頼る。 ヘタは磨くと個性になります。絵手紙は自分磨きです。

2. 字について

書を習っている人の字は、上手すぎます。上手すぎると字に面白みがありません。
習った字は古くさくてワンパターン。
書道は普通、お手本を見てかきます。形にとらわれてしまうから自由がない。絵手紙は自由なので、自分の思うままにかけばいい。手が震えて、字がゆれたりゆがんだりしても、自然のままだからそれでいいのです。それが自分字。ただし、「手紙」なので読みやすい字で。活字を参考に、「向き合う線は平行に」「線と線は等間隔」

3. ヘタについて

技能的に向上したり経験を積んだりすると、技に頼ってしまうものです。 そうすると心の中が出にくくなってきれいごとになりやすい。 きれいごとは空しい。底が浅くて、心に残らない。ヘタなうちは集中して、心をドキドキさせて書くので、ごまかしのきかない気持ちがよく出ます。 心を込めて一生懸命にかいたものは、相手の心を打つ。 一生懸命さが、技を超えた「ヘタ」を生む。「下手」は上手下手という技術をいい、「ヘタ」は上手を超える「下手」。何事も「上手に」とか「美しく」とか「きれいに」というのが大事だといわれてきており 私たちは見方にすでに巧拙、美醜、優劣といった固定観念を持っています。そういった技術によった尺度ではない見方、据え方。今あるがままを、まるごと認めようとする基本姿勢が、「ヘタでいい、ヘタがいい」です。

4. 幼稚な絵について

絵手紙の要素は「絵」と「字」と「ことば」です。絵だけがうまくても、心に響く絵手紙はかけません。字は書道のような「上手」ではなく、「自分字」を探しましょう。結局手紙で一番大切なのは「ことば」。自分の中にないものは出てきません。毎日日記をかいたり、詩を読んだり、通勤中の電車の中で中吊り広告を見たり。「ことばを磨く」ことを意識して見渡すと、語彙を増やして、短いことばで気持ちを表せるようになります。

5. 線について

絵も字も線でかく絵手紙は線が大切。一本の線を紙に彫り込むような気持ちで引きます。紙の上をなでただけでは、線ではなく棒になってしまいます。動かない心、感動のない心には、魅力がない。心はふるえてこそ素晴らしい。筆の穂先が、紙やっと触れるくらいの意識でゆっくり線を引こうとすると、どうしても線は揺れ、ふるえるものです。ふるえこそ、真剣勝負の証で、魅力の源泉。味わいのある線は、全力で線を引いたときに、初めて現れる。優美になってきたら危険で、線をやり直した方がいい。過去の「きれいな」絵をく崩す、捨てる。捨てるとまた、新しい自分が出てくるのです。

6. 色について

色づけは、タッチと勢い。勢いと速さがあると、水々しい色になる。にじみとかすれが入ると立体感がでる。ゆっくり集中してかくりんかく線とは反対に手早くトントントンと色を置いていきます。色をぬることは、「心臓の音」をたたき込むこと。ドキドキという「心臓の音」があれば描ける。今までの絵のように、陰影とか丁寧にきれいに塗りつぶしていくとかのようにかくと顔彩の透明感も失われ、動きのない仕上がりになってしまいます。絵手紙が最も大事にするのは、「自然のいのちのイキイキ感」です。*顔彩は混ぜれば混ぜるほど濁ってしまいます。

7. おさまることについて

どうせはがきに入りきらない世界を描いているのだから、小さくまとまっては良くない。人間はおさまったらおしまいです。はがきにちんまりおさまった絵はつまらない。入りきらない絵は、はみ出した所を想像させるからいいのです。はみ出すように大きくかきましょう。
大きくかくためには、細部までじっくりと視る必要があります。かくためによく視る努力を続けていると、ものを見る力、観察力がついてきます。観察力によっていろいろなことに気づき、見過ごしていた身近なものにも自分ならではの発見ができるようになります。絵手紙は元気を送るもの。
大きくかくだけで自分の気持ちも大きくなり、元気な絵手紙になります。

8. こだわりについて

トーリー性のある絵手紙、一枚の葉っぱ、自分のまわりの小さな地域を‥かく。私にはこれしかないというのが、その人の足場になります。梅原龍三郎でさえ、花とか山とか裸婦しか描きませんでした。何でも描くというのはよくない。こだわる情熱を持つ。興味のないものはウソになる。自分のテーマを絞って、それを貫き通す。

9. 個性について

書道の時間には「はらい」や「止め」などのルール、「法」を習う。「法」というのはみんなに通用する便利なものですが、反対に個人は出ない。ところが、心がドキドキしていると、ある時突然この「法」を破ってしまうことがあります。この「法」をはみ出したドキドキというのは日本人だけでなくどこの国に行っても伝わるようです。
個性というのは、どこででも通用するという力を持っていないとダメ。私はこれだというものがないとつまらない。途中でいやになっても、一本何かやり通す。それが「個性」となっていく。

10. 行き詰まることについて

いつまでも一つの事を追いかける。行き詰まったら、又もとに戻るのも。
落ち込んでいる人は伸びる。何とかしようと努力するから。満足してしまったらそこで終わり。絵手紙は「絵」と「字」と「ことば」。「絵」に行き詰まったら「字」へ、「字」に行き詰まったら「ことば」へ。画集を視たり、詩を読んだり、配色や構図、和紙や墨について調べたり。ひたすら線の練習をしたり、墨は使わず鉛筆・割り箸でだけかいたり。それぞれを行ったり来たり気分転換してはまた、自分の道に戻る。奥が深く、満足しない世界。

11. 暮らしの中の美について

実用から離れた書画は、何かを失っています。額に入れたり、展覧会に出すのがいいのではなく、暮らしの中にあってこそ美しさがある。
無名でも、その人らしい美しさをつくっていくのが大事。絵手紙を始めると、生活の中でのいろいろな場面に絵手紙の心遣いを取り入れてみたくなるものです。ちょっとしたメモに、封筒やご祝儀袋に、コースターや名刺に‥既製品、電子メール、パソコン・ケータイと無機質なものを多く目にする日々に手書きの温かみをプラスしましょう。